サーフィン競技の未来論|素人が見ても楽しいスポーツになるために、変わるべきこと

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この記事でわかること

  • 競技サーフィンが「見ていてつまらない」と感じる構造的な理由
  • ウェーブパークが変えられる5つの問題と、変えられないこと
  • プロサーフィンの資格制度が抱える根本的な矛盾
  • 私が考える「素人でも楽しめる競技サーフィン」の理想形

競技サーフィンを「素人が見て楽しいスポーツ」にするには、波の問題・採点の問題・チーム制の不在という3つの構造を同時に変える必要があります。サーフィン歴20年の実践者として、韓国のウェーブパークを2回訪問し、コレクトサーフのコーチング合宿にも参加した経験をもとに、個人的な見解を書いてみます。あくまで一サーファーの考えであり、これが正解だとは思っていません。

競技サーフィンを「見て楽しい」スポーツにするために

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サッカーやバスケットボールは、ルールを知らない人でも「あ、入った」「すごいプレーだった」と分かります。

競技サーフィンはどうでしょうか。

私が初めてWSLの試合を映像で見たとき、正直なところ、どの波がいい演技でどの波がそうでないのか、まったく分かりませんでした。サーフィンを長く続けてきた私でさえそうなのですから、未経験者にはさらに難しいはずです。

これは選手の技術の問題ではなく、スポーツとしての構造の問題だと考えています。

以下、5つの問題を順に整理します。

問題1|波を待つ時間が長すぎる

海でのサーフィン競技を観ていると、選手が波を待っている時間がとても長いです。

これは仕方のないことです。海の波は自然現象であり、いい波が来るかどうかは誰にも分かりません。試合時間の大半が「待ち」になることも珍しくありません。

スポーツとして考えると、これは観る側にとって大きな障壁です。サッカーやバスケットボールでは、ゲームが止まる時間は限られています。競技サーフィンでは、逆転の比率が「波が来たか・来なかったか」という運の要素に左右される場面があります。

もちろん、波を読む能力も競技の一部です。ただ、観客席から見ると、その判断がなぜ正しかったのかを理解するのは難しいです。

問題2|海の水質が観戦環境を限定する

海の試合会場は天候・水質・アクセスに大きな制約があります。

雨の後は水質が悪化します。夏の海水浴シーズンは浜が混みます。波のいいポイントは人里離れた場所にあることも多い。競技会場として使えるロケーションは、自然に限定されます。

これも自然の中で行うスポーツの宿命です。ただ、スポーツとして観客を呼び込み、チケットを販売し、スポンサーを集めるためには、「どこでも開催できる」環境が理想です。

問題3|採点基準が観客に伝わりにくい

競技サーフィンの採点は、スピード・パワー・フロー・難易度・コンビネーションなど複数の要素を組み合わせています。

これを10秒の演技を見ながら瞬時に理解するのは、サーフィンを長くやっている人でも難しいです。ましてや初めて観る人には、なぜ7.5点でなぜ8.0点なのかが分かりません。

私が韓国のウェーブパーク(WAVEPARK)でコレクトサーフのコーチング合宿に参加したとき、驚いたことがありました。

WQSサーファーが均一な波の上で素晴らしいサーフィンをしていました。

圧倒的なパフォーマンスでした。

ところが、コーチはそのライディングを見ながら「テイクオフでレールが入っていない」と言いました。「日本のプロサーファーの多くも同じ課題を持っている」と。

私の目には完璧に見えたものが、専門家には技術的な課題として映っていました。

これがサーフィン競技の採点の難しさを象徴していると感じました。プロとアマチュアで「見えているもの」がまったく違う。観客は何を評価しているのか分からないまま試合を見ることになります。

問題4|個人競技のため応援の対象を作りにくい

競技サーフィンは基本的に個人スポーツです。

サッカーやバスケットボールの応援が熱狂的になる理由のひとつは、「チーム」という単位があるからです。地元のチームを応援する、地域が一体になる、チームメイトが助け合う——そういう感情移入の構造があります。

個人競技にもチャンピオンシップという興奮はあります。ただ、地域のスポーツバーでみんなで応援するような文化は生まれにくいです。

「地元出身の選手を応援する」という文化はあります。ただ、チームスポーツのような「俺たちが勝った」という一体感とは、少し違います。

問題5|スポンサー参入の構造的な難しさ

競技サーフィンのスポンサーは、グローバルなサーフブランドか大企業が中心です。

地域の中小企業が「地元の大会に協賛する」という文化が根付きにくい構造があります。試合会場が毎回異なる場所に移動する。チームが存在しない。視聴者数が安定しない。

これだと、地域に根ざしたスポンサーシップのモデルを作るのが難しいです。F1でもプロ野球でも、地元企業がチームを支援する構造が地域とスポーツをつなぐ役割を果たしています。競技サーフィンにはそれが欠けていると感じています。

ウェーブパークが変えられること、変えられないこと

私は韓国のWAVEPARKを2回訪問しました。

最初に入ったとき、率直に言って「これは競技サーフィンを変える可能性がある」と思いました。同時に、限界も感じました。

2回目に訪れたとき、その「可能性と限界」がより具体的に見えてきました。1回目は新鮮さで興奮したまま帰ってきた。でも2回目に同じ波に繰り返し入りながら、ふと気づいたことがありました。波を読む必要がないということは、波を読む能力が評価から消えるということでもある。それがいいことなのかどうか、正直今でも判断がついていません。ただ、「海とは別のスポーツとして設計する」という方向性ならば、むしろそれが強みになるとも思い始めました。

ウェーブパークでは、M3からT2まで波の難易度を段階的に設定できます。均一な波が繰り返し来ます。水はクリーンです。屋内施設も整備されています。観客席を作ることも、アクセスしやすい場所に設置することも、技術的には可能です。

先ほどの5つの問題と照合するとこうなります。

問題ウェーブパークでの変化
波待ちの時間が長い均一な波が来るため待ち時間がほぼゼロになる
海の水質・環境制約クリーンウォーター・安定した観戦環境を作れる
採点基準が伝わりにくい同じ波で比較できるため採点設計のやり直しができる
個人競技で応援しにくいチーム制・地域対抗制を設計できる余地がある
スポンサー参入が難しい固定会場×チーム制で地域企業の協賛が現実的になる

変えられないこととして、「海の自然を感じる」という競技サーフィンの根本的な魅力があります。

ウェーブパークの波は均一です。それは制御可能であることを意味しますが、同時に自然の波が持つ予測不可能な美しさとは別物です。選手が波を読む能力、変化する海面への対応能力——そういった競技としての醍醐味の一部は失われます。

ウェーブパーク版の競技と、海での競技は、別々のカテゴリーとして共存する形が現実的かもしれません。

詳しくはウェーブパーク完全ガイドにまとめています。施設ごとの特徴や利用方法も解説しています。

プロサーフィンの「プロ」とは何か

ここからは、少し踏み込んだ話をします。これはある資格制度への個人的な疑問です。

私がサーフィンを始めた頃、「プロサーファー」は特別な存在でした。

ところが近年、プロサーファーの数が増え続けています。理由のひとつに、日本では更新料を支払えばプロ資格を維持できる仕組みがあると聞きます。現役で試合に出ていなくても、更新を続ければ「プロ」を名乗れる。

つまり英検や漢検のようにライセンスビジネスになっている。

ちなみにこの構造があるのは日本だけです。サーフィンの先進国であるUS、ハワイ、オーストラリアにはこのような「プロサーファーのライセンス」はありません。

では何を持ってプロと言われるのか。

具体的にはサーフィンで飯を食えていたり、家族を養えていたり、WSLの最高峰チャンピオンシップツアーに参戦しているかで判断されます。

他のスポーツと比べてみる

プロ野球選手はチームを離れたら現役ではありません。プロバスケットボール選手も同様です。現役を引退したら「元プロ野球選手」と名乗ります。チームに所属し、試合に出ることがプロの条件です。

サーフィンでは、現役を引退した後も「プロ」を名乗り続けられる仕組みがあります。

ライセンス料を支払って更新すればプロを名乗り続けられます。

これが何を引き起こすか。

プロが増えるほど、プロ資格の希少価値が下がります。

希少価値が下がれば、スポンサーがつきにくくなります。スポンサーがつかなければ、現役選手が競技だけで生活することが難しくなります。結果として、トッププロを除いた選手の年収は下がり続けます。

これはプロサーファーを目指す若い世代にとって、かなり厳しい構造です。

一般の人から見ると、「この人もプロ、あの人もプロ」という状態は混乱を招きます。誰が本当に活躍している選手なのかが分かりにくくなります。

私はサーフィンの資格制度を批判したいわけではありません。

ただ、他のスポーツが採用している「チームに所属して試合に出ている間がプロ」という明確な定義は、競技の価値を守るために機能しているなと感じています。

コレクトサーフのコーチング合宿の詳細はコレクトサーフ コーチング合宿 in 韓国ウェーブパークで書いています。WQSサーファーの技術を間近で見た体験も含めてまとめました。

私が考える競技サーフィンの理想形

ここからは、完全に個人的な構想の話です。

もし私が競技サーフィンの構造を一から設計できるとしたら、チームスポーツ化と地域リーグ制を組み合わせた形を考えます。

チーム制の導入。地域ごとのチームを作り、選手をチームに所属させます。「沖縄シャークス」「湘南ホエール」「オルカ宮崎」という形で、リーグを作り、地域にチームをつくります。これだけで、応援の対象が生まれます。

Jリーグ、Bリーグは全てそうですよね。

そして、ウェーブパークでのリーグ戦を年間を通して行います。固定の会場で定期的に試合を開催します。均一な波で全選手が同じ条件で競います。採点基準を再設計し、初心者でも「大技が決まった」と分かるような構成にします。

スノーボードもフィギュアスケートも採点競技として、そのように発展してきました。

地域スポンサーシップ。チームが固定されれば、地域の企業がチームのユニフォームや施設に名前を入れられます。プロ野球の球団が地域の企業文化と結びついているように、競技サーフィンも地域経済と結びつく余地が生まれます。

そうやってチームを育てて、育成選手を育てていけば、ウェーブプールでのサーフィンでは、日本は世界一になれると思う。

もちろん、これは私の想像の中の話です。

自然の海を離れることへの抵抗感は、サーファーの多くが持つと思います。ウェーブパークは「本物の海」とは別物です。海の試合にしかない緊張感があります。

それはスノーボードやスキーにも近いでしょう。あくまでも特定の環境での技術を競う競技にするのです。

だからこそ、ウェーブパーク版リーグと、海の世界選手権を別カテゴリーとして共存させる形が現実的かもしれません。

実際に韓国WAVEPARKを体験した詳細は韓国ウェーブプール実体験レポートに書いています。波の品質や施設環境も含めてレポートしています。

また、ウェーブパーク環境でのサーフィン上達については韓国ウェーブパークでのサーフィン上達法もあわせて参考にしてみてください。


よくある質問

Q. ウェーブパークでの競技サーフィンは、海の試合と同じ採点が使えますか?

現状の採点基準をそのまま使うことは難しいと思います。海の試合の採点は「その波でどれだけいいサーフィンをしたか」という要素が含まれます。ウェーブパークでは波が均一のため、波の選択という要素がなくなります。スノーボードのように競技と採点基準を分けて行うのがいいでしょう。

選手の技術を純粋に比較しやすくなる一方で、海の競技とは別の採点基準が必要になります。どちらが優れているという話ではなく、別のスポーツとして設計し直す余地があると考えています。

Q. サーフィン競技を観るとき、何に注目すれば楽しめますか?

分かりやすいのはエアーですよね。マニューバやターンの質というのは素人には分かりにくいです。スノーボードのハーフパイプは最初、180度まわるだけでも選手になれたように、少しずつ進化していくでしょう。人々が熱狂するのは、いかにすごい技を見せたかです。現行のサーフィンではどれだけリスキーな波でライディングしているか、すごいエアをしているかぐらいしか素人目には分からないです。

Q. チームスポーツ化はサーファーに受け入れられると思いますか?

難しい部分はあると思います。サーフィンは元来、個人と波の対話というスポーツです。チームのために戦うという文化は、まだ根付いていません。ただ、すでにオリンピックがチーム対抗で盛り上がっている事実を見ると、形を工夫すれば受け入れられる可能性はあると思います。若い世代のサーファーほど、チームスポーツへの親和性は高いかもしれません。

Q. 現在のプロ資格制度を変えることは現実的ですか?

現実的かどうかを判断する立場にありません。ただ、他のスポーツの歴史を見ると、収益構造が変わったときに選手の位置づけや資格制度も変わってきた例はあります。ウェーブパークによって競技の会場が増え、放映権やスポンサー収入の構造が変われば、それに連動して制度も変わる可能性はあると考えています。

Q. 日本で競技サーフィンを観戦できる機会は増えていますか?

オリンピックでのサーフィン競技は、競技サーフィンの認知度を大きく上げました。日本国内でもWQSやJPSAの試合が各地で開催されています。ウェーブパーク施設が国内に増えれば、より安定したスケジュールで観戦できる機会が生まれる可能性があります。現時点では、国内のウェーブパーク施設はまだ少ないですが、韓国や海外では整備が進んでいます。


まとめ

  • 競技サーフィンが「見て楽しい」スポーツになりにくい理由は、波の不均一さ・採点の分かりにくさ・個人競技という3つの構造にあります
  • ウェーブパークは「波待ち・水質・採点設計・チーム制・スポンサー参入」の5問題に対応できる可能性があります
  • ただし「自然の波を読む競技性」はウェーブパークでは代替できず、海の試合と共存する形が現実的です
  • プロ資格の希少価値が低下する仕組みは、現役選手の価値を下げる構造的な問題をはらんでいます
  • チーム制・地域リーグ制・固定会場の組み合わせが、競技サーフィンを「観るスポーツ」に変える鍵だと私は考えています

これはあくまで私個人の見解です。変えるべきかどうか、どう変えるべきかは、競技に関わるすべての人が議論すべきことです。一サーファーとして、競技サーフィンが多くの人に楽しんでもらえるスポーツになってほしいという気持ちから書きました。

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ヒガシーサー

ヒガシーサー

ブロガー/クリエイター/サーフボード開発/テストライダー

サーフィン歴20年、Beach Access・nanazeroのテストライダー、サーフボード・サーフスケート開発チーム。19年間も上達できなかったが、オーストラリアの科学的メソッドで上達。その経験を軸にブログ・SNSで一般サーファーのためのサーフィン上達方法、楽しみ方を共有している。SNS総フォロワー6.5万人。

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